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高輪クリニック

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2013年6月

2013年6月20日 (木)

魂医(ソウル・ドクター)―和合医療―Vol.7

第二章
「救急隊から連絡が入りました」

インターホーンから受付の女性職員の声が流れて来た。
一人の男が横になっていた長椅子から立ち上がり、
受話器を取った。

「東京明光大学付属病院ERです。ご用件を」

男は気だるそうに答えた。

「新宿東救急隊です。急患受け入れをお願い致します」

受話器の向こうから緊張した隊員の声がした。

「どのような患者さんですか?」

医師が気だるさを振り払って聞き返した。

「60歳女性、トラックにはねられ、意識不明です。
JCS100,頭部外傷はありませんが、両大腿の骨折を認めます」

「分りました。搬送して下さい!」

医師は内容を確認し受け入れを承諾した。

「高倉君。10分程で交通外傷が来る。頼むよ。
僕は脳外に連絡しておくよ」

と応対した医師は、高倉医師に後を頼んだ。

「分りました、医局長!」

高倉は、直に立ち上がり、側に居た若手の医師、
田村を連れて救急玄関に急いだ。

「相変わらず、元気だな・・・・・」

医局長と呼ばれた医師、有村次郎は走って行く彼の後姿を見詰めた。

「おっと、ボーッとしていられない。疲れが貯まっているな」

有村は頭を掻きながら脳外医局に電話をかけた。

ここは東京明光大学付属病院ER、
都内でも屈指の救命救急センターとして活動している。
トップは守山大輔教授、専門は消化器外科であった。

各大学との差別化を図る為に、大学にERを設立する事になった。
他の教室は渋ったが守山が手を上げたのだった。

彼は移植を研究しており、将来はiPS細胞を利用しようと考えていた為に、
渡りに船と考えたのだった。

「有村君、君は経験が有ったよね。ERの医局長を頼むよ」

有村次郎は以前、アメリカのERで研修を受けた事が有ったので、
守山教授の鶴の一声で責任者をさせられ、
ERを一から創り、早10年経った。

開設当初は大学側も力を入れてくれていたが、
他大学もERを行うようになり、
相変わらず忙しいが経営としては5年まえから厳しい状態が続いていた。

現在ERには有村を含め、5年目の医師一人、若手3人の計5人で活動し、
慢性の人手不足の状態だった。

労働条件が厳しく中々希望する医師が居ない。
守山教授の口添えで有村が医師をかき集める状況だった。

ピーポー・ピーポーとサイレンを鳴らして救急車が救急玄関に到着した。
後部ドアが開き、救急隊員が患者を乗せたストレッチャ―を降ろして
医師に病状を説明しだした。

「患者さんは60歳、女性。
道路を横断中に左折して来たトラックにはねられました。
両大腿の骨折、明らかな頭部外傷は有りませんが
意識レベルはJCS100です」

「分りました。身許は?」

精悍な顔つきの医師が尋ねた。

「町沢京子さん。娘さんに連絡がつき、今こちらへ向っています」

隊員の返答に医師は頷き、テキパキと指示をだした。

「田村先生、CT撮影の手配して。石田先生はソリタT3でルート確保」

「はい、高倉先生」

石田と呼ばれた若手医師は急いでルートを確保し始めた。
その間高倉は聴診器で肺の音を聞いたり、全身を診察していた。

つづく、、、

2013年6月13日 (木)

魂医(ソウル・ドクター)―和合医療―Vol.6


日曜日の山の手線は平日と打って変わって空いている。

新宿から山の手線の青いシートに二人は腰を下ろした。

そして5分もしないうちに、母親は、雨情にぐったりと頭をもたせてきた。

またジョークか、こんなに不思議なジョークを続けるのは初めてだな、
久しぶりのお買いものでママも興奮しているんだな、
でもくっつけて嬉しい。

すべてジョークなんだ。自分を納得させ、
安心した雨情は重い頭を振りのけることなくおとなしく座っていた。

品川を過ぎる。

これみよがしに、イビキまでかきはじめた。
雨情は、しずえの耳に息を吹きかけくすぐってジョークを返す。
反応がない。迫真の演技だ。

東京を過ぎる。

「えっ、降りないの、青い電車に乗り換えないと
ぐるぐる回ってまた新宿にもどっちゃうよ」

むかいの車窓にうつる自分たちの姿はくだらないお笑い番組だ。

神田を過ぎる。
自分の鼻を音をたてて思い切りかいた。
いつもの癖、しずえから鼻血がでてしまうと止められるが、
今日は何の反応もない。

御徒町を過ぎる。

小さな口に小指を突っ込み、薬指を鼻の穴に、
人差し指を下まぶたにかけて、引っ張る。

薄目を開けてみているはずなのに、ママは笑ってくれない。

車内の薄ら笑いに気が付いた。

ママのせいだ。

隣の座席があいたついでに、体をずらした。
ママは糸が切れた操り人形のように倒れて、
二人分の座席を占領していたる。

上野を過ぎた。

来る。

また幻聴がでてきそうな予感を感じた雨情は、
その感覚を吹き払うように

いつまで、ウソ寝を続けてるんだ」

日暮里でドアが開くと、ママを残して飛び降りた。

代わりに一匹の蛾が飛び込んできて、
ママのまわりを凱旋したとたん、
お腹に差し込まれる痛みを感じた。

蹲りそうになりながら、電車に再び乗り込もうとするが、
ドアーが閉まる。

電車は容赦なく、母親を運び去っていく。

行かないでママ!

荷物を放り投げ、電車を追いかける。

ピッピッピッピッ、、ガシャッ、駅員の鳴らす警笛と
顕微鏡の袋を落とし、使う前の宝物がクラッシュ音が同時になった。

喧騒を無視して電車は力強く走りだした。


つづく、、、

■バックナンバー
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